龍の背中に乗ったこと、ありますか。もしくは空を飛んだこと、ありますか。私はないのだけど、憧れている。きっかけは数年前に一度だけ見た「空を飛ぶ夢」。
「空を飛ぶ」と言ってもポヨヨ~ンという感じで、残念なくらい風を感じる速度はなく、浮遊体のように漂うものだった(宮崎駿監督の映画『崖の上のポニョ』の魚の女の子ポニョが泳ぐみたいな)。それでも初めての空飛ぶ体験としては素晴らしかった。
この夢以降「と、飛べた~!(う、浮かんだ~!に近い)」というリアルな感覚がずっと体に残っていて、あの幸せな体験をいつかまたしてみたい、と妄想してる。
このことを友人知人に話したところ、夢で飛んでいる人が実にたくさんいることがわかった。ビュンビュン勢いよく飛ぶ人はもちろん、手を使って一生懸命羽ばたく人、平泳ぎするようにゆったり飛ぶ人、中には勢いよくブランコに乗っているうちに、そのまま何度も飛んでいった経験を持つ人(もちろん夢の中で)もいた。
おそらく、人類は物心ついたころから「空を飛びたい」生き物だっただろう。けれど現代においてはまだ「今日の空、いいよね~。あっち方面に飛びたいね~。」「おぉいいねー。今日は時間あるよ。どうやって飛ぶ?」なんて会話をすることはないので、夢をきっかけに知り合いの「飛ぶ」体験を聞くことができたのは、とても楽しかった。なぜなら、本当にそれぞれおもしろいほど違うから(飛び方と個性って関係してる?)。そう、人それぞれ歩き方も話し方も食べ方もすべて違うように、夢での飛び方だってまるきり違うのだ。
もちろん、この身のままポーンと飛べるのが一番だけど、龍の背中に乗ってビューンと空を飛べたら最高。私個人では決して出ないスピードで空を飛べそうだから。(どうがんばっても今のところ最高時速はポヨ〜ンだもの・・・。)例えば映画「ネバーエンディングストーリー 」で、ファルコンに乗る少年のように。または、TVアニメ「日本昔ばなし」のオープニングに出てくる「龍の子太郎」(♪ぼうや~よい子だネンネしな~♪のオープニングソングとともに流れるアニメーション)みたいに。
そんなわけで、私が数ある香港トレッキングコースの中から選んだのが「ドラゴンズバック(Dragon’s Back) 」、広東語で「龍脊」だったのは言うまでもない。(ふう。無事に着地できた~。)
*****
前述した通り、香港のトレッキングコースは実に数多い。50~100kmにおよぶ長大トレイルは4つ、そのほかに大小50はあると言われている。そんな中から行きたいコースをひとつひとつ吟味したい人がいるとしたら、間違いなくマニアである。(マニアなあなたには『香港アルプス ジオパークメジャートレイル全ガイド』金子晴彦・森Q三代子著 アズ・ファクトリー(2010)がオススメ。)
私の場合、長大なコースを歩くには全くもって体力に自信がなく、時間もなかったため、宿泊場所からのアクセスが良く半日程度で行って帰って来れる絶景コースを希望していた。ネーミングに飛びついたけれど、この点でもDragon’s Backはうってつけだった。
とは言え、香港のトレッキングコースは、どこもたいていはアクセスがいい。
そもそも香港自体が大きな地域ではない(香港島・九龍・新界すべてを含めても東京都の約半分の大きさ)。さらに、香港中にトレッキングコースを作ったイギリス人は、長いコースのすべてを5~15kmごとに区切ってセクションをもうけ、その区切り地点がバスやタクシーの通る車道に面するよう工夫した。
おかげで長いコースでも、1~2セクションだけ歩いて一度街へ戻り、後日続きのセクションを歩くことが可能だ。これなら休みが短い人でも、体力がない人でも、思いついたときにぶらっと行って手軽にトレッキングを楽しめる。こんなコースを行政主導で作っていったのだから、さすがフットパスの国のイギリス人だ。
Dragon’s Backは香港島の南東、石澳半島(Shek O Peninshula)にある尾根を南から北へ歩くコースで、香港島を西から東へ蛇行しながら進む全長50kmの「香港トレイル」全8セクションの最後のセクションにあたる。この半島の尾根部分、標高284mのShek O Peakと265mのWan Cham Shanをつなぐ部分がいわゆる「龍脊」、龍の背骨ということなのだろう。きっと、そこに登って周囲を眺めると、まるで竜の背中に乗って空から半島や海を眺めているかのような景色が広がっているに違いない、と想像した。なんて素晴らしいネーミング。
ネーミングにちなんで少し話がそれるが、香港を旅していて戸惑ったのが地名の呼び方だった。「龍脊=Dragon’s Back」は広東語も英語も意味が同じだと察せられてわかりやすいが、そうとばかりはいかないネーミングがたくさんあったからだ。
香港には昔からある広東語、いわゆる漢字の地名と、イギリス人がつけた英語の地名がある。ちなみに、日本軍が占領したわずか3年8ヶ月の間には、それにかぶせるように日本語の地名がつけられていたという。「もうここは私たちのものだ」と主張したいときにまず使う手法の代表例が、あらゆる名前を自国の言葉に変更することなのだろうと思う。
それはともかく、イギリス人の香港における地名のネーミングパターンはなかなかおもしろくて好きになった。私が見たところ、パターンは3つ。
香港島の中心地「中環=Central」のように、おそらく通訳者に広東語の意味を確認し、それに合わせて英語の名前がつけられたものがひとつ。「深水湾=Deep Water Bay」もそう。とってもわかりやすい。
2つ目は、広東語の音読みをそのまま英語に当てはめたもので、例えば先ほど出てきた「石澳=Shek O」。「澳」は「入り江」という意味で、広東語では「au」と発音する。これを英語一文字「O」で片づけるなんて、なかなかセンスがいい。しかしこのノリは特別で(私は好きだが)、多くはDragon’s Backの峰のひとつ「雲枕山=Wan Cham Shan」のようにやや難解な音訳がそのまま英語になっているものが多い。日本語的に「ウンチンサン」とか「くもまくらやま」と読みたくなって、なんともじれったくなるのだ。
3つ目は、広東語とは全く異なる意味の英語がつけられたもの。例えば、香港島の北を走る地下鉄の駅「銅鑼湾」は、銅鑼のように丸い入り江だったことからつけられた地名だが、イギリス人はそこにあった石の堤防にちなんで「土手道」を意味するCauseway Bayという名をつけた。雲枕山の北西には標高348mの「歌連臣山=Mount Collinson」があるが、この名前は、1845年イギリス人のトーマス・コリンソン中尉が初めて香港島の詳しい地図を作ったことを称えてつけられたという。香港に住む人にとってはなんのこっちゃと言いたくなるネーミングだ。
これらとは別に、イギリス人によってつけられた地名を漢訳したものもある。「Queen’s Road」は香港でイギリス人が最初に作った道と言われているが、のちに同じ意味の広東語で「皇后道」とつけられている。
このネーミングパターンから見ると「龍脊=Dragon’s Back」は、イギリス人が漢字の意味を知って「なるほど、龍の背か。なかなかいいな。よし、そのまま採用じゃ!」とばかりに英語の名前をつけたのではないかと想像する。もしもこれが広東語の音読みにちなんで「Long Ji」なんてつけられていたら、このトレッキングコースの魅力は半減するに違いない(個人的見解)。
さあ、次回こそ龍の背に乗って空を飛びに行くぞ〜。[つづく](MK)
「空を飛ぶ」と言ってもポヨヨ~ンという感じで、残念なくらい風を感じる速度はなく、浮遊体のように漂うものだった(宮崎駿監督の映画『崖の上のポニョ』の魚の女の子ポニョが泳ぐみたいな)。それでも初めての空飛ぶ体験としては素晴らしかった。
この夢以降「と、飛べた~!(う、浮かんだ~!に近い)」というリアルな感覚がずっと体に残っていて、あの幸せな体験をいつかまたしてみたい、と妄想してる。
このことを友人知人に話したところ、夢で飛んでいる人が実にたくさんいることがわかった。ビュンビュン勢いよく飛ぶ人はもちろん、手を使って一生懸命羽ばたく人、平泳ぎするようにゆったり飛ぶ人、中には勢いよくブランコに乗っているうちに、そのまま何度も飛んでいった経験を持つ人(もちろん夢の中で)もいた。
おそらく、人類は物心ついたころから「空を飛びたい」生き物だっただろう。けれど現代においてはまだ「今日の空、いいよね~。あっち方面に飛びたいね~。」「おぉいいねー。今日は時間あるよ。どうやって飛ぶ?」なんて会話をすることはないので、夢をきっかけに知り合いの「飛ぶ」体験を聞くことができたのは、とても楽しかった。なぜなら、本当にそれぞれおもしろいほど違うから(飛び方と個性って関係してる?)。そう、人それぞれ歩き方も話し方も食べ方もすべて違うように、夢での飛び方だってまるきり違うのだ。
もちろん、この身のままポーンと飛べるのが一番だけど、龍の背中に乗ってビューンと空を飛べたら最高。私個人では決して出ないスピードで空を飛べそうだから。(どうがんばっても今のところ最高時速はポヨ〜ンだもの・・・。)例えば映画「ネバーエンディングストーリー 」で、ファルコンに乗る少年のように。または、TVアニメ「日本昔ばなし」のオープニングに出てくる「龍の子太郎」(♪ぼうや~よい子だネンネしな~♪のオープニングソングとともに流れるアニメーション)みたいに。
そんなわけで、私が数ある香港トレッキングコースの中から選んだのが「ドラゴンズバック(Dragon’s Back) 」、広東語で「龍脊」だったのは言うまでもない。(ふう。無事に着地できた~。)
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前述した通り、香港のトレッキングコースは実に数多い。50~100kmにおよぶ長大トレイルは4つ、そのほかに大小50はあると言われている。そんな中から行きたいコースをひとつひとつ吟味したい人がいるとしたら、間違いなくマニアである。(マニアなあなたには『香港アルプス ジオパークメジャートレイル全ガイド』金子晴彦・森Q三代子著 アズ・ファクトリー(2010)がオススメ。)
私の場合、長大なコースを歩くには全くもって体力に自信がなく、時間もなかったため、宿泊場所からのアクセスが良く半日程度で行って帰って来れる絶景コースを希望していた。ネーミングに飛びついたけれど、この点でもDragon’s Backはうってつけだった。
とは言え、香港のトレッキングコースは、どこもたいていはアクセスがいい。
そもそも香港自体が大きな地域ではない(香港島・九龍・新界すべてを含めても東京都の約半分の大きさ)。さらに、香港中にトレッキングコースを作ったイギリス人は、長いコースのすべてを5~15kmごとに区切ってセクションをもうけ、その区切り地点がバスやタクシーの通る車道に面するよう工夫した。
おかげで長いコースでも、1~2セクションだけ歩いて一度街へ戻り、後日続きのセクションを歩くことが可能だ。これなら休みが短い人でも、体力がない人でも、思いついたときにぶらっと行って手軽にトレッキングを楽しめる。こんなコースを行政主導で作っていったのだから、さすがフットパスの国のイギリス人だ。
Dragon’s Backは香港島の南東、石澳半島(Shek O Peninshula)にある尾根を南から北へ歩くコースで、香港島を西から東へ蛇行しながら進む全長50kmの「香港トレイル」全8セクションの最後のセクションにあたる。この半島の尾根部分、標高284mのShek O Peakと265mのWan Cham Shanをつなぐ部分がいわゆる「龍脊」、龍の背骨ということなのだろう。きっと、そこに登って周囲を眺めると、まるで竜の背中に乗って空から半島や海を眺めているかのような景色が広がっているに違いない、と想像した。なんて素晴らしいネーミング。
ネーミングにちなんで少し話がそれるが、香港を旅していて戸惑ったのが地名の呼び方だった。「龍脊=Dragon’s Back」は広東語も英語も意味が同じだと察せられてわかりやすいが、そうとばかりはいかないネーミングがたくさんあったからだ。
香港には昔からある広東語、いわゆる漢字の地名と、イギリス人がつけた英語の地名がある。ちなみに、日本軍が占領したわずか3年8ヶ月の間には、それにかぶせるように日本語の地名がつけられていたという。「もうここは私たちのものだ」と主張したいときにまず使う手法の代表例が、あらゆる名前を自国の言葉に変更することなのだろうと思う。
それはともかく、イギリス人の香港における地名のネーミングパターンはなかなかおもしろくて好きになった。私が見たところ、パターンは3つ。
香港島の中心地「中環=Central」のように、おそらく通訳者に広東語の意味を確認し、それに合わせて英語の名前がつけられたものがひとつ。「深水湾=Deep Water Bay」もそう。とってもわかりやすい。
2つ目は、広東語の音読みをそのまま英語に当てはめたもので、例えば先ほど出てきた「石澳=Shek O」。「澳」は「入り江」という意味で、広東語では「au」と発音する。これを英語一文字「O」で片づけるなんて、なかなかセンスがいい。しかしこのノリは特別で(私は好きだが)、多くはDragon’s Backの峰のひとつ「雲枕山=Wan Cham Shan」のようにやや難解な音訳がそのまま英語になっているものが多い。日本語的に「ウンチンサン」とか「くもまくらやま」と読みたくなって、なんともじれったくなるのだ。
3つ目は、広東語とは全く異なる意味の英語がつけられたもの。例えば、香港島の北を走る地下鉄の駅「銅鑼湾」は、銅鑼のように丸い入り江だったことからつけられた地名だが、イギリス人はそこにあった石の堤防にちなんで「土手道」を意味するCauseway Bayという名をつけた。雲枕山の北西には標高348mの「歌連臣山=Mount Collinson」があるが、この名前は、1845年イギリス人のトーマス・コリンソン中尉が初めて香港島の詳しい地図を作ったことを称えてつけられたという。香港に住む人にとってはなんのこっちゃと言いたくなるネーミングだ。
これらとは別に、イギリス人によってつけられた地名を漢訳したものもある。「Queen’s Road」は香港でイギリス人が最初に作った道と言われているが、のちに同じ意味の広東語で「皇后道」とつけられている。
このネーミングパターンから見ると「龍脊=Dragon’s Back」は、イギリス人が漢字の意味を知って「なるほど、龍の背か。なかなかいいな。よし、そのまま採用じゃ!」とばかりに英語の名前をつけたのではないかと想像する。もしもこれが広東語の音読みにちなんで「Long Ji」なんてつけられていたら、このトレッキングコースの魅力は半減するに違いない(個人的見解)。
さあ、次回こそ龍の背に乗って空を飛びに行くぞ〜。[つづく](MK)