さて、香港の山はとても岩岩しい(iwaiwashii=造語)。上に行くほど歩く道にも岩がむき出しになり、コレは宇宙から落ちてきたのか?と思うような不思議な色の石も転がっている。遠目に見ると日本の山と変わりなく緑いっぱいに見えるが、登っていると岩肌になんとか植物が生えている様子がわかる。なるほどこんな岩山だから降る雨は地表を滑り落ち、降水量が多いわりに水を蓄えにくいのだろう。イギリス人が香港のあちこちにダムをつくろうとしたのも納得だった。
とはいうものの、登山口から30分ほども登ったところでいきなり頂上に到着した。息を切らしてはいたものの「え、もう着いたの?」と少々拍子抜けだ。(連載をこれほどひっぱっておきながら、あまりにあっけないDragon’sBack登山終了であることをお許しいただきたい。)龍の背中からのぞむ360°の眺望はすばらしかった。南には青々と広がる湾が見渡せ、白い砂浜に囲まれた島々が浮かんでいた。反対側には山の間から香港中心街の高層ビル群が見える。
出発が遅かったのでのんびりしていると日が暮れてくる。というわけでビーチでひと休みしたあと中心街へもどるバス停へ向かった。しかし時刻表的なものを見てもお目当てのバスがいつ来るのやら、よくわからない。ひっきりなしに来るのはどこを走るかわからないミニバスとカードが使えないタクシーばかり。GoogleMapを見ながらなんとか大型バスがよく通るであろう道まで歩き、持っていた香港の交通機関共通カード「オクトパス」(日本でいうSuicaのようなもの)を使って町まで帰ることができた。やれやれ。
海外を旅するとき、日本の当たり前は通用しない。ガイドブックやネットに書いてある情報も場合によって不確かなものになる。だからこそハラハラし、ちょっとした冒険をするような気持ちになる。さらに山に登るという選択をしてみた今回の旅は、やはり日常的なハイキングとはまた別のドキドキ感があった。香港のような都会的な観光地にいながら、近くに山があるなら登ってみようという試みは、街とは違う面から香港を感じたり考えることができて楽しい体験だ。登山目的で訪れる国ではなく、こんな都会的な場所の山だからこそおもしろく、そこで出会う人は、人種はまったく違ってもわたしと何かしら似た喜びや楽しみを見出しているひとたちだと思えて、にやにや嬉しい気持ちになる。これからまた海外を旅するとき、もう少し積極的に「街近くの小山をハイキングしてみる」という選択肢を考えてみてもいいかもしれないと思う。